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京都の桜とにしんそば

2010 年 5 月 25 日 One Comment

この春の命冥加は、京都の花見であった。高瀬川沿いの桜のあでやかさ、はなやかさ、しっとりはんなりした雰囲気は、東京の花名所とも全国どこの花どころとも違う、みごとに咲き誇る“いのち”だった。
この街では、桜の合間に柳が見えるのがもっとうれしい。若緑に垂れた新芽は、まだ小さいながらに存在感があって、花を引き立て、花に引き立てられていた。
一日中歩けるだけ歩いて、都の桜を見尽くしたい。だから、お昼は軽めにさらさらとおそばにしよう──行ったのは、松葉。にしんそばの名店である。場所は四条大橋の東詰め、南座のなかに南店がある。四条通りを隔てた北側は北店である。かつては南側に南座、北側に北座と、芝居小屋が向かい合っていて、文久元年に創業した松葉は北座の芝居茶屋だったそうだ。
うまい具合にカウンターに席をとれたわたしは、まるで芝居の桟敷席にすわった気分。おそばが届くまで、じっと観察をつづけた。
にしんそばは、まずどんぶりを温めることから始める。湯を通してていねいに温めたら、にしんを入れる。よく味を含ませたみがきにしんである。丼の縁から頭部分と尻尾部分がのぞくくらいだから、大きさの想像もつくだろう。おもいっきり巨大なのだ。そこにそばつゆをはり、そばを乗せる。薬味に青ねぎを添える。まことにシンプル。
そして、見た目は控えめ。なぜなら、にしんは大部分がそばで隠れ、頭と尾だけがつゆから顔をのぞかせているだけなのである。具はほかにないから、まことに簡素である。
ずずっとそばつゆをすする。少々甘味があって、そこににしんの味と独特の香りがまつわっている。そばは流行りのきりりとした江戸風でもなく、さりとてごつい田舎風でもなく、まろやかで穏やかな口当たり。つゆににしんの香がしみているから、そばもにしん風味になっている。おいしい。そばのうまさではなく、にしんのうまさでもなく、そばとにしんとつゆと青ねぎという四大役者の揃い踏みのおいしさなのである。
京都イコールにしんそばという、あたりまえすぎるくらいの常識は、まことに的を得た常識だったのだ。


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  • 荒木一夫 said:

    にしんそば大好きです。いつが旬なんですか?

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