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きょうの郷土料理( 3)笹巻き(島根県)・三角ちまき(新潟県)・笹巻き(山形県)

2020 年 5 月 25 日 No Comment

きょうの郷土料理( 3)
笹巻き(島根県)・三角ちまき(新潟県)・笹巻き(山形県)

 京都のちまきは京文化として商品化されているが、山陰・出雲のちまきは野趣に富んでいて、旧暦端午の節句の頃にはわずかながら家庭でつくられている。笹の葉が以前のようにとれなくなり、技術を心得た女性が高齢化するにつれて減少気味だが、若い世代が「食べる民芸」ととらえ直して、次代へ伝えてほしいものだ。
 出雲のちまきは笹巻きと呼ばれ、笹の葉五枚を使うかんざし巻きという手法。もち粉生地(上新粉入りも)の団子を平たくし、一本の笹の茎に突き刺してから笹の葉四枚で巻いて茹でる。きな粉や砂糖を付けて食べるのは、あく巻きと同じだ。きな粉は味覚的にもよく合ううえ、原料の大豆は必須アミノ酸のリジンを補ってくれる。栄養学的にも理にかなっているのだ。
 一方、東日本のちまきは主に日本海側に見られ、形は三角が多い。新潟ではその名もずばり三角ちまきという。ところが、山形に入ると名称が笹巻きと変わる。ここも三角形が多数派だが、庄内には拳(こぶし)形、竹の子形もあり、どれも旧暦端午の節句の頃につくられる。出羽三山の山伏が携帯食にし、行く先々で伝えたという伝説も頷けるほど、県内のどの地方でも盛んである。
 巻き方は、笹の葉でじょうごを形どり、洗った糯米を詰め、もう一枚の笹を表に重ねながら三角に整えて藺草で縛る──というもの。子供の頃から慣れていなければ、とうてい身に付かない技だ。山形の女性は、家族や郷土への大きな愛を、笹巻きの小さな三角形の中に込めるのである。
 山形の笹巻きの加熱法は二種ある。一つは鶴岡など庄内に多い灰汁煮で、木灰を溶かした湯で煮る。そう、前回のあく巻きと同じで、灰汁の強アルカリ性が糯米を餅状に変えるとともに、黄色く染め上げる。あく巻きは竹皮の色が滲み出るために茶褐色になるが、笹巻きの方は笹の葉で巻くから色味もライトな黄色で、笹の緑によく映える。コクがあっておだやかな風味は、芯の強さを秘めたやさしさの山形女性そのもの。これにもきな粉や砂糖がよく合う。
 庄内に負けず劣らず笹巻きに熱いのは村山地方。最上川上流域で、山形市を含む県中央部に位置する。紅花交易などを通じて昔から文化交流が盛んで、芋煮発祥地でもあり、味噌、漬物など料理の腕に覚えがある農家女性が食品加工所や古民家レスランを営む例も多い。
 谷地(やち)の雛市で知られる河北町の「楽舎(らくや)」店主・今田みち子さんもその一人。笹巻きはお姑さんに仕込まれたもので、この地方では塩入りの湯で茹でるのが定法。東京・三軒茶屋にある河北町のアンテナショップにも出すほどの人気商品だ。
 研いで最低四時間は水に浸けた糯米を1個あて25グラムほど笹の葉に詰め、巻いて、まず20分、裏返して20分、計40分煮る。と、笹葉の中で糯米が膨張して米粒同士がくっ付き、もちもちしたおこわになる。
 この笹巻きは定番のきな粉や砂糖で食べるといい。きな粉は山形県産の「秘伝」大豆の自家製で、大豆をオーブンで少し焼いてから、粉に挽いているので、香ばしさがすばらしい。試してみたら、もちもちにねばねばが加わって、口の中が賑やかに華やぐ。往時のさなぶりにはこれでどぶろくを楽しんだのだろう。また、納豆をからませて食べるのも新鮮な味わいだ。
 さて、今田さんは醤油と砂糖であまじょっぱくしたもち粉生地を中身にした「なた巻き」も得意で、こちらは四角形をしている。上面に山ぐるみを一粒載せてから笹の葉で包み、笹巻きと同様に茹でる。名称の由来は不明だそうだが、形が農具のなたの分厚い刃に似ているゆえの名ではないだろうか。
 こちらは笹巻きよりさらに菓子っぽく、福島のゆべしに似ているし、岩手のきりざんしょうにも近い。と、各地の郷土料理を想い浮かべていたら、今田さんが驚きの発言。「この辺の西村山では笹巻きのバリエーションの感じだけど、北部の北村山では笹で巻かずに生地だけで大きくつくり、名前はくじら餅というの」
 山形北部・新庄から青森の津軽地方で愛されているくじら餅にまでつながっているとは。ちまき、笹巻きの分布は奥が深い。

 

 

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