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薩摩の節句菓子、灰汁巻(あくまき)

2011 年 5 月 14 日 One Comment

 子供の日は過ぎたけれど、わが家の近所の鯉のぼりはまだ元気に泳ぎつづけているし、節句菓子のかしわ餅も店頭にたくさん並んでいる。旧暦でいえば端午の節句はこれからなのだから、お節句気分でいてもちっともおかしくない。
 今日のおやつもかしわ餅にしようかしらと思っていたところに、鹿児島県伊佐市大口の陶芸家・川野恭和さんから灰汁巻が届いた。あくまきと読む。
 鹿児島人にとっては五月に欠かせない節句菓子で、いわばちまきの薩摩版である。同封の川野さんの手紙にも「今年も灰汁巻が各家を飛び交っています」と、楽しいフレーズがあった。各家庭ごと、各人ごとの自慢の味を、親戚友人に届ける風習があるからだ。
 灰汁巻とは、もち米を孟宗竹の皮で包み、木灰を入れた熱湯で煮て、灰のアルカリ作用によって米をふっくらともち状に仕上げる軽食兼おやつ。軒先に大きな鉄鍋を持ち出して薪をどんどん燃やし、灰汁巻をいくつもいくつも煮ながら、子や孫のすこやかな成長を祈るのである。
 できあがりは、竹皮の茶色がもちに染み込んで風合いのいい褐色になり、半透明のもちもちねっとりした、不思議なおしいしさの食べものになる。灰汁の具合、米、煮方違いで、匂いに強弱があったり、色の濃淡、ぷりぷり具合、ねっちりの加減、もっちりの強弱、米粒が完全に消えていたり残っていたり……と、さまざまに異なるのが楽しい。どれがベストかを問うのではなく、個性の豊かさを味わう菓子なのだ。もちろん、よく煮てあるから常温で日保ちする便利おやつでもある。
 川野さんから届いた灰汁巻は、わたしが初めて見る超幅広サイズの超柔らかな仕上げが1本、琥珀のような美しい色で、歯にすっーと当たるちょうどよい堅さが1本。前者は鹿屋市の中塩屋あけみさんの、後者は曽於市の轟木涼子さんの作で、どちらも川野家に贈られた品のお福分けである。また、川野さんの奥様が黒砂糖入りきな粉と、当年81歳というお知り合いの女性の手づくり醤油を同封してくださった。醤油をつくった伊佐市の岩下としさんをはじめ、薩摩の女性たちは、家族を喜ばせようと、自家製の味づくりにせっせと励むとのこと。これこそ家庭料理の原点である。
  そこで、新茶を用意しておいてから、あくまきを大きな匙でざっくりすくい、きな粉をまぶして、新茶と交互にほおばった。きな粉の香ばしさと黒糖の力強い甘味の奥から、もち米が野太いおいしさを伝えてくる。次の一切れは醤油をちょんとつけて、舌にのせる。ひとくせある灰汁の風味が醤油にくるまれ、すいっとのどを通っていった。これは焼酎にも合いそうだ。おっと、子供にはすすめられませんけどね。
 おいしいおいしいと独り言をいっているうちに、目の前に、薫風のなかを泳ぐ鯉のぼりが浮かび、わたしはむしょうに鹿児島に飛んで行きたくなってしまった。

  陶芸家としての川野さんは、会津若松で修業後、故郷の薩摩で窯を開いた方。実用に即しながら、端正かつモダンなセンスを加味した作風で知られる。湯呑み、急須、皿、小鉢、飯茶碗などの食器が得意で、今ちょうど銀座で個展を開催中である。もしかしたら、会場で、新作に盛りつけた灰汁巻が待っているのではないだろうか……。

    黙祷の空に今年も鯉のぼり 

   灰汁巻きの琥珀に透ける立夏かな  千恵子

 

●川野恭和作陶展 2011年5 月7 日~20日 11 時~19時   会場はギャラリー江(こう)  ☎03-3543-0525   中央区銀座4-3-15成和銀座ビル2 階(改築中の歌舞伎座の右横を入り、右側の珈琲店2 階)

One Comment »

  • 川野恭和 said:

     
     こんばんは。川野です。
     
     早速 ブログに書いていただきありがとうございました。

     薩摩の女性達も 作りがいがあったと 一層研鑽される事でしょう。

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