俳句エッセー〔9〕佐賀県白石町の「新玉ねぎ」
有明海の北端に沿って走るのと、佐賀県の白石町周辺はまったく平らだ。佐賀鍋島藩の時代からずっと有明海を干拓し続け、面積を増やしてきた地域なのである。
「江戸時代は、あの道路までずっと海だったんです」と、はるか彼方を指さしたのは、佐賀オニオンファーム代表の中村明さん。そして、くるりと回れ右をして、「今は、あの霞んで見える堤防までずっと畑になりました」と言う通り、四方はどこまでも平坦で、すべて玉ねぎ畑だった。
「おいしい玉ねぎをつくるには、日照時間、地中温度、雨量に恵まれることが大切なんです。白石はそれらの条件を満たしているうえ、干拓地特有の粘土質の土壌なので、玉ねぎが甘くなるんです」とのことだ。
前年の秋に植え付けた玉ねぎは、4月から6月に収穫する。これが新玉ねぎだ。甘味があり、水分が多く、みずみずしい風味を楽しめる。その代わり、保存はきかない。春のいっときだけの味わいなのである。
地元ではどう食べているのだろう。白石町の「だるま寿司」では、新玉ねぎをお造りのつまに用いるほか、海苔巻きにする。酢飯、グリーンリーフ、新玉ねぎの薄切り、マヨネーズ、おかか、きゅうりを順に重ねていき、海苔でくるりと巻きあげるのだ。しゃりっとした歯応えがさわやかで、辛味などまったくない。
農家レストラン「野々香」のアイディア料理は新玉ねぎの炊き込みご飯。下ごしらえした新玉ねぎをベーコン、米と合わせて、土鍋で炊き込む。玉ねぎのとろりと甘い食感がご飯と一体になって、えもいわれぬまろやかさである。
佐賀市内の「酒肴菜飯 志乃」なら、新玉ねぎのステーキ。厚めの輪切りにチキンコンソメを含ませ、バター醤油が軽く焼いたものだが、一口食べただけで手が止まらなくなる。
食べ歩くうちにコツがわかった。新玉ねぎは手をかけないくらいのほうがおいしいのだ。
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