福岡で見つけた「竹の子」の隠れ里
竹の子というと京都ばかり有名だが、この四月、質量ともに日本一の竹の子の里に行ってきた。福岡県の北九州市小倉南の合馬(おうま)地区である。1400ヘクタールもの竹林があるのだが、あまり知られていない土地だから、竹の子の隠れ里といってもいいだろう。
春は桜前線ばかり話題になるが、竹の子前線はもっと起伏に富んでいる。12月に、鹿児島ではもう出荷が始まる。お正月需要を狙って、地面にニクロム線を通して土の温度を上げ、ついだまされて顔を出した竹の子を採るのである。しばらく間をおいて、四月の声をきくと、合馬の出番。次が静岡。そして本命の京都が登場したあとは、順次北へ上がっていく。
合馬の竹の子は関西へ出荷されることが多く、東京では福岡産というラベルで出回るようだ。わたしが合馬から帰京した週には、デパートに確かに福岡産が並んでいたが、翌週にはもう静岡産に変わっていた。
合馬の竹の子ももちろん孟宗竹のものだが、土が粘土質の赤土──京都の竹林と同じ土質なので、アクが少なく、やわらかいのが特徴。とくに白子と呼ばれるタイプは風味豊かなうえ、ひとしおやわらかい。
わたしが現地で買った竹の子は四本。いずれも大きくて重い。翌日にはぬかまで付いて宅配便で届くのだから、まことに便利だ。
もちろん、すぐに家中の鍋を動員して煮た。時間が立つとえぐみが出るからだ。一晩鍋のなかで冷まし、皮をむいて再び水につける。
さあて、まずは若竹煮。わかめと竹の子という組み合わせだが、名前がきれいなだけでなく、味の取り合わせもすばらしい。
さっそく、自慢の削り立てかつお節ですばやく煮含めた。いつもは、木の芽(さんしょうの若芽)をたっぷり添えるのだが、今年はベランダのさんしょうの木がまだ芽を出していないので、さんしょうの実を使うことにした。ちょうど、岐阜の㈱飛騨山椒から塩漬けをいただいたところなのである。
㈱飛騨山椒では、山で摘んできたさんしょうを商う。木の芽をそのまま出荷したり、乾燥してさんしょう粉にするのだが、実ざんしょうを販売することもある。山育ちのさんしょうだから、マンションのベランダで育ったわたしのひ弱な木の芽とは格段に違う。香りがよくて、味があってやわらかいのだ。いまわたしの手元にあるのは実ざんしょうで、直径5ミリほどの実が塩漬けされて、おだやかなダークグリーンの粒になっている。
それを、若竹煮にぱらりとふってみた。木の芽と違って、香り立つというほどでもないが、竹の子といっしょに口に入れて、あっちもこっちもびっくりしてしまった。
まず、竹の子がやわらかい。先っぽは後に残しておこうと、太い部分を食べたのだが、ううむと思わずうなるやわらかさだったのだ。そのくせ、繊維はくっきりしているから、歯応えはしゃっきり。かつおだしのきき方がちょうどいいし、わかめの香りが花を添えてくれる。
もうひとつおどろいたのは、実ざんしょうだった。つん、とくる刺激が竹の子の素直すぎるほどの食感を引き立ててくれるので、大人の味わいになっている。
この取り合わせは大発見だ。わたしは、うなるどころか、悲鳴をあげそうになるほどに感動しきっていた。
竹の子の爛漫と笑む青花鉢 千鶴子(母)
竹林のざわめき遠く若竹煮 千恵子
4月に「田舎庵」さんで頂いた若竹煮を思い出しました。
食感のよい筍と出汁、わかめ、山椒、それぞれの素材が
活かされた、美味しくて印象深い味でした。
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