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お知らせ!最新“耳より”情報

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[13 6月 2019 | No Comment | ]

 何かがむしょうに食べたくなることがある。どなたにもお覚えがあるだろう。もし、それが夏のじゅんさいだったら、わたしは迷わず産地まで駆けて行く。日本一のじゅんさい産地、秋田県三種町を知って以来のことだ。
 都会の料理屋で卵豆腐にちょんもりのったじゅんさいのおすましぶりもいいものだが、三種町のじゅんさいときたら、森の樹液のような透明ゼリーがこれでもかというほどたっぷりまとわりついており、直売所では小指の先ほどのかわいいのから、葉巻サイズのでっかいものまで選りどりみどりという大迫力なのである。
 袋から透けて見えるじゅんさいの若緑色の爽やかなこと。もちろん加熱なんぞしてない生ばかりだ。これを、どんぶり入りの酢の物にしたり、かき揚げ、鍋にするし、ラーメンやそばの具にも山のように加える。そして、水の味とほろ苦みをしみじみ味わいつつ、わたしはじゅんさいが清水で育つ山菜であることを再認識する。
 じゅんさいはスイレン科の多年草。地下茎が水中で茎をのばし、睡蓮そっくりの葉を水面に浮かばせるが、茎、新芽、開く前のロール状の葉、若葉のすべてがぷるるんとした寒天質のぬめりで覆われているのが特徴。このゼリーがもたらすつるり感がじゅんさいの醍醐味。茎や葉はカロチン、カルシウム、ビタミン等々を含む。
 古代の人たちが栄養価を知っていたはずもないが、固有の清涼感には魅せられたようで、万葉集や古今和歌集にも詠まれている。もっとも、昔はじゅんさい(蓴菜)よりも、ぬなわ(奴那波、蓴)と呼ぶことが多かった。沼の縄の意で、水中に伸びた茎を沼の縄に譬えたのだろう。
 三種町は秋田市から北に向かい、八郎潟を越えたあたり。秋田杉の山々に囲まれ、白神山地がすぐという立地は、清らかな池沼を好むじゅんさいにぴったり。転作田に湧水を引いたじゅんさい池が増えているが、じゅんさい栽培に農薬はご法度だから、環境は天然のままである。
 人間が近づくと、蛙が何匹も草むらから飛び出て池に跳ね、水音がして波紋が広がる。池には泥鰌や鮒もいる。いまどき珍しい自然生態系の中で、じゅんさいはゆるりゆるりと成長していくのである。
 じゅんさいは盥舟の収穫で知られたが、現代の三種町では底が畳一畳ほどの浅い小舟を用いる。盥と同じく一人しか乗れない狭さで、乗っているのは「おばあちゃん」と呼びかけたい年代の方々ばかり。若い人は工場などで働き、お嫁さんはパート勤めという現代の農山漁村共通の構造は、ここでも変わらないのだ。
 ともあれ、わたしも、えいっと、舟に乗ってみた。すぐに思い知らされたのは、じゅんさいの涼しげな印象とは正反対に、収穫は過酷な作業であること。いくら長袖を着込み、手拭いで頬っ被りし、日よけ帽子を被っても、日焼けと暑さからはどうにも逃げようがない。
 じゅんさいの古名が沼の縄に譬えられた理由も、よーくわかった。
 太陽がじりじり照りつけるなか、池へ漕ぎだす。水面に身を乗り出して、ここぞという葉の茂みの下を探る。茎を掴もうとすると、表面がぬるぬる、つるつる。「ぬなわの意地悪めっ」と、手から逃げていく茎に悪態の一つもつきたくなる。なんとか茎をつかまえたら、新芽や巻いた葉を水中で手探りし、爪の先でぷちぷちと一つずつ摘みとっていくのだ。じゅんさいと人間の気の遠くなるような熱いせめぎあいの果てに、涼感あふれる滋味がほんのひとつまみ採れるとは、お釈迦さまも阿弥陀さまも御存じあるまい。
 都会の食いしん坊や酒好きはじゅんさいの可憐な風情を愛する。だが、産地では米や芋と同じくじゅんさいもきつい労働の成果であり、たんなる野菜以上の存在ではない。だからこそ地元では、どっさりたっぷり豪快に楽しむのだ。
 地産地消が叫ばれ、郷土料理が見直されている時代なので、ご当地鍋も現われている。じゅんさい鍋といい、きりたんぽのご飯を団子状のだまこ餅に置き換えた鍋料理というとわかりやすい。もちろん、特産の生じゅんさいをたっぷり入れるのがみそ。お取り寄せもできなくはないけれど、比内地鶏のうま味が溶けだしたスープでじゅんさいをすすり込む贅沢さは、ぜひ現地へ出かけて味わいたいものだ。
 白神の水の精なり生じゅんさい   千恵子

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[20 4月 2019 | No Comment | ]

いつも「ラジオ深夜便」をお聞きくださり、ありがとうございます。
5月の放送は5/2(木)の深夜0時台(暦の上では5/3)、
      5/16(木)の深夜0時台(暦の上では5/17)、
      5/23(木)の深夜0時台(暦の上では5/24)、
の3回で、いずれも日付が変わってまもなくの時間帯です。
また、今回から約20分間のコーナーに拡大されますので、一つの食べものだけでなく、
それにまつわる歴史や食文化についてもお話しできると思います。
どうぞお楽しみに。
 

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[10 4月 2019 | No Comment | ]

 有明海の北端に沿って走るのと、佐賀県の白石町周辺はまったく平らだ。佐賀鍋島藩の時代からずっと有明海を干拓し続け、面積を増やしてきた地域なのである。
「江戸時代は、あの道路までずっと海だったんです」と、はるか彼方を指さしたのは、佐賀オニオンファーム代表の中村明さん。そして、くるりと回れ右をして、「今は、あの霞んで見える堤防までずっと畑になりました」と言う通り、四方はどこまでも平坦で、すべて玉ねぎ畑だった。
「おいしい玉ねぎをつくるには、日照時間、地中温度、雨量に恵まれることが大切なんです。白石はそれらの条件を満たしているうえ、干拓地特有の粘土質の土壌なので、玉ねぎが甘くなるんです」とのことだ。
 前年の秋に植え付けた玉ねぎは、4月から6月に収穫する。これが新玉ねぎだ。甘味があり、水分が多く、みずみずしい風味を楽しめる。その代わり、保存はきかない。春のいっときだけの味わいなのである。
 地元ではどう食べているのだろう。白石町の「だるま寿司」では、新玉ねぎをお造りのつまに用いるほか、海苔巻きにする。酢飯、グリーンリーフ、新玉ねぎの薄切り、マヨネーズ、おかか、きゅうりを順に重ねていき、海苔でくるりと巻きあげるのだ。しゃりっとした歯応えがさわやかで、辛味などまったくない。
 農家レストラン「野々香」のアイディア料理は新玉ねぎの炊き込みご飯。下ごしらえした新玉ねぎをベーコン、米と合わせて、土鍋で炊き込む。玉ねぎのとろりと甘い食感がご飯と一体になって、えもいわれぬまろやかさである。
 佐賀市内の「酒肴菜飯 志乃」なら、新玉ねぎのステーキ。厚めの輪切りにチキンコンソメを含ませ、バター醤油が軽く焼いたものだが、一口食べただけで手が止まらなくなる。
 食べ歩くうちにコツがわかった。新玉ねぎは手をかけないくらいのほうがおいしいのだ。

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[24 3月 2019 | No Comment | ]

 岡山県の中央部を東西に貫く中国自動車道。院庄ICの南側の美咲町はTKGのふるさとだ。この英語三文字はスリーレターコードと呼ばれる略号で、日本がJPN、東京がTYO、新東京国際空港(成田)がNRTという表示は貨物のタグなどでよく見かける。TKGもそれと同じで、「卵かけご飯」の略称。
 このTKGを最初に食べた人物は、美咲町出身の岸田吟香(ぎんこう)。明治に活躍したジャーナリスト、実業家である。吟香は朝食に生卵三、四個を割り、大盛りご飯にのせて、焼塩と唐辛子をふってかき混ぜる習慣だったそうな。
 美咲町では、このエピソードを町おこしに活用した卵かけご飯専門の「食堂かめっち」が大人気。地元には大手の優良鶏卵生産会社があるし、棚田百選の「大垪和(おおはが)の棚田」でおいしい米がとれるから、食材についても間違いない。
 「かめっち」の卵かけご飯は、卵とご飯のお代わりが自由。味噌汁、漬け物が付いて三百五十円なり。
 ただし、急いでかっこむのはおすすめできない。まず、丼のまん真ん中のご飯を一口味わう。その後、卵を割って、ご飯の凹んだ部分にそっと載せる。そして、かき混ぜる前に、黄身と白身をちょっぴりずつ味わっておく。新鮮卵はやはりうまいですからね。たれは、しそ・海苔・ねぎのお好みをかければ結構。あとは混ぜて、よく噛んで食べるだけ。
 TKGは栄養的にも完璧。卵でたんぱく質と脂肪、ご飯で糖質がとれるのだ。糖質は即効性があり、脂肪はじわじわ型、たんぱく質は体温を上昇させ、心のテンションを高めてくれる。というわけで、吟香の真似をして朝ごはんにすると、いちばん効果が大きい。幸いなことに「かめっち」は朝九時から営業しているから、朝ごはんにも便利だ。

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[14 3月 2019 | No Comment | ]

2019年の郷土料理伝承学校は、NHK文化センター主催、福井市協力による「福井の郷土料理」セミナーとして開講します。NHK文化センターのイベントをそのまま講座につなげる特別イベントです。
内容としては、「越前おろしそば」などの郷土料理を御清水庵清恵(日本橋三越前)でいただきながら、福井の食文化についてご紹介するもので、へしこ、花らっきょ、すこ、甘えび、小鯛の笹漬け、麸の辛子あえ、上庄里芋の煮っころがしなどを体験していただきます。
開講日 5月28日(火) 午後2時~3時30分
受講料(税込) 一般9,828円 事前予約・事前支払
お申し込みは 電話:03-3475-1151まで
インターネットでのお申し込みは、https://www.nhk-cul.co.jp/school/aoyama/
から「越前おろしそば」で検索。
 

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[14 3月 2019 | No Comment | ]

今月のNHKラジオ「歌の日曜散歩」は、3月17日(日曜)、午前11時過ぎからの出演です。
今月のテーマは「春野菜」。
桜前線とともに北上してくる「たけのこ前線」の主役・たけのこを始めとして、新玉ねぎ、新キャベツの魅力をお話しします。どうぞお聞きになってください。
この番組には2年間毎月出演してきましたが、今回をもっていったん終了いたします。
また、どこかで近いうちにお目にかかれると思います。
長い間お聞きくださいまして、どうもありがとうございました。

 

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[2 2月 2019 | No Comment | ]

幸福感をもたらす色なら、映画タイトルになったハンカチをあげるまでもなく黄色。この色から誰もが最初に連想するのは菜の花。新春の九州・指宿に始まり、五月中旬の下北半島・横浜町まで、菜の花前線の北上に合わせて各地で菜の花マラソンが開かれるのは、黄一色の世界を走る心地よさをランナーが知っているからだ。
菜の花はアブラナ科アブラナ属の黄色い花の通称で、白菜、大根、小松菜、野沢菜などの場合も“菜の花”と呼ばれる。文部省唱歌『おぼろ月夜』で「菜の花畠に入日薄れ……」と歌われている奥信濃・飯山の菜の花も野沢菜のものなのだ。千曲川沿いに黄色のファンタジーを繰り広げる花々が信州名産・野沢菜漬にかかわっていると知って、わたしはいっそう親近感を覚えた。
ともあれ、四枚の花弁が十字形に並ぶ菜の花は、蜜蜂ならずとも惹きつけられる愛らしさ。その魅力は遠景にするとさらに増す。ここを大きくとらえた蕪村の句が日本人の心の原風景にまでなっているのも当然であろう。
ところで、江戸中期に六甲山地の摩耶山で詠まれたというこの句の菜の花は、農業研究者からは搾油用だったとされる。菜の花畑はすなわち菜種の畑だったのだ。
そういえば、「野崎村」の場で知られる鶴屋南北の歌舞伎『お染久松色読販(ルビ=おそめひさまつうきなのみようり)』のヒロイン・お染は油屋の娘と言う設定で、恋人・久松を追って駆けつけた野崎村の舞台下手は菜の花のセットと決まっている。油屋の娘にふさわしい道具立てとして、南北が菜の花を指定したのなら、さすがである。
江戸時代は、油といえば一にも二にも菜種油で、灯火にも食用にも用いられ、油粕は畑の肥料になった。菜の花は実利をともなう景観作物といった存在だった。現代、滋賀県東近江市から始まり、日本中に広まった「菜の花プロジェクト」という菜の花を切り口にして資源循環社会を目指す運動がある。眺めて美しく、種子からは油がとれ、廃油は石鹸になり、バイオ燃料として車まで動かせる菜の花パワーに着目したものだが、この祖型はすでに江戸時代からあったのだ。
菜種油に話をもどすと、平成の食卓で植物油といえばサラダ油やオリーブ油が主流だが、じつは知らないうちにわたしたちは菜種油を口にしている。豆腐屋の油揚げや鹿児島名産の薩摩揚げである。からりと香ばしく、骨太のうまみをもった味に揚げるには菜種油がいちばんなのだ。
こんな根強い需要や、前述の菜の花プロジェクト運動の広がりもあって、輸入菜種一辺倒から近年は国産菜種が少しずつよみがえってきて、地油(上2文字に傍点)を謳う生産者も現われているからうれしい。
もちろん、花菜、菜花などの名で食用としても出荷されている。辛子和えや白和えによく、吸い物、蒸し物、鍋の彩りにもぴったり。春を告げるほろりとした辛味、やさしい歯ごたえ、爽やかな緑色と風情満点なうえ、たんぱく質、カロチン、ビタミン、ミネラルが豊富で、蕾にはストレス緩和、精神安定に効くホルモンまであるそうだから、たくさん食べるにこしたことはない。そうそう、菜の花の蕾が注目されたきっかけは京都の菜の花漬だったそうだから、京都の漬けもの屋には先取りセンスがあるといえる。
一方、関東では房総半島の海辺が食用菜の花の特産地。温暖な安房では昔から切り花用に栽培されていたし、養蜂用にもつくられていたので、スムースに食用に転換できたのだ。
わたしは、房総の突端にある白浜町に菜の花を求めて旅したことがある。なのに、探せども探せども一面緑の菜の花畑ばかり。農家の老夫婦に聞いて理由がわかった。
「花を咲かせたら売れないんだよ」と、夫婦が口を揃えるように、食用は蕾のうちが花。開花すると味は落ちるわ、茎は固くなるわで、商品価値がなくなるのである。
だから、蕾が膨らみ始めたら、せっせと摘むのが日課だという。潮風の吹き抜ける畑で、手のひらにおさまるほどの寸法サイズに折り取って、背中の籠へ入れていく。家へ戻ると一束二百グラムずつにきっちり束ね、紙で巻いて、長さを切り揃える。菜の花のきっちりしたパッケージは、農家の夜なべ仕事に支えられているのだ。他の葉物野菜に比べて割高感があるのもいたしかたない。
菜の花忌薩摩の春は黄いろより 千恵子

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[26 1月 2019 | No Comment | ]

冬はわたしの大好きなすき焼きの季節。
1月26日18時30分放送のBSプレミアム『趣味どきっ!』の「近代日本鍋の旅」でも、
いよいよすき焼きが登場します。
明治以来のすき焼きの歴史や、楽しみ方のコツなどをお話しするので、
いわば向笠千恵子のビジュアル版すき焼きエッセーという構成です。
どうぞご覧になってください。

また、インターネットでは、27日から2週間ほど見逃し配信も行われるようです。

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[26 1月 2019 | No Comment | ]

本年第一回目のNHKラジオ「歌の日曜散歩」は、1月27日(日曜)、午前10時30分頃からの出演です。
今月のテーマは「海苔」。
海苔の大生産地は有明海。佐賀空港に向かう飛行機から見ると、海面いっぱいに海苔の筏、筏、筏……。
ご存じのとおり、有明海は干満差が大きいのですが、
そのぶん、筏が水面下にあったり、水から出て空気に当たったりするので、香りよく柔らかい海苔ができるのです。
今回は、味に定評があるアサクサノリ種の海苔についてお話しします。
スタジオで試食もする予定です。
また、生産者の島内さんにも電話でご登場いただき、海苔づくりのコツをうかがいます。
どうぞお聞きになってください。

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[15 12月 2018 | No Comment | ]

今月のNHKラジオ「歌の日曜散歩」は、12月16日(日曜)、午前10時30分頃からの出演です。
今月のテーマは「牡蠣」。
広島県の大黒神島で三保さんがつくっている生牡蠣──
それも殻を開けてあるので食べやすい「ハーフシェルオイスター」をご紹介します。
スタジオで試食もする予定です。
生産者の三保さんにも電話でご登場いただき、コツをうかがいます。
どうぞお聞きになってください。